欧米ではトップアスリートを育成するプログラムとして研究されてきた「コーディネーショントレーニング」ですが、日本では児童の体力・運動能力向上を図るために広まってきました。
コーディネーショントレーニングでは7つの能力が設定されていて、それらを伸ばしていくトレーニングを行っていきます。7つの能力とは何か、子どもに適した具体的な練習メニューはどういうものかを紹介していきます。
コーディネーショントレーニングの7つの能力
コーディネーショントレーニングには7つの能力が定義されています。
1.定位、2.変換、3.連結、4.反応、5.識別、6.リズム、7.バランス です。
それぞれを詳しくみていきましょう。
1.定位能力 Spatial Orientation
相手やボールなどと自分の位置関係を正確に把握する能力です。
相手が敵か味方か、どんな状態かの「状況把握」、どれくら離れているか、どんなスピードで動いているかの「距離感」、方向や大きさ、形状、位置関係を把握できる「空間認知」の能力です。
球技、新体操などの道具を使ったりする競技、チームで行うスポーツでは特に重要ですね。サッカーやバスケットボールなどでゴールを決めるためにはかかせない能力です。
この能力が高いと、視野が広く、自分以外の選手やモノにも注意が向けられるので判断が素早く正確にできるようになります。
2.変換能力 Ability to adapt
状況に合わせて、素早く動作を切り替える能力です。定位能力、反応能力と連携をとって行われます。
サッカーや格闘技など対戦相手がある競技で“フェイント”に対応する能力であったり、状況変化を予測する能力も含みます。
反応能力との違いは対人プレーで特に必要となるということでしょうか。相手の出方次第で自分の行動を素早く選択していく能力と言えそうです。
3.連結能力 Synchronization of movement
関節や筋肉の動きを、タイミングよく同調させる能力です。
反射運動をコントロールすることによって“なめらかな動き”ができるようになります。
動作には準備段階、主要段階、最終段階という“運動局面”があり、力を伝導させることによって次の動きがスムーズになります。
一連の動作をつなぐためには“体幹の使い方”をマスターする必要があります。
ゴルフのスイングやテニスのストローク、バレエやスケートなど回転する運動などでは“身体軸”をブレさせないことで連結能力が高まります。
球技、格闘技系の受け身、フィギュアスケート、器械体操で特に必要になる能力です。
4.反応能力 Speed of reaction (to sights and sounds)
合図に素早く、正確に対応する能力です。
訓練によって反射的にできるようになるレベル「考えるな、感じろ。( Don’t think! Feel.)」を目指す感じでしょうか。
反応能力が高いと、対人競技で、体格差の不利な条件があっても覆すことができそうですね。
反応には取るべき行動の選択肢が一つの“単純反応”と選択肢が複数の“選択反応”があります。選択肢が多いほど経験値や予測能力が必要になってきます。
5.識別能力 Kinesthetic differentiation
手や足の動きを調整し、道具の扱いを正確に行う能力で、テニスや野球など道具を使った競技では必須の能力です。
「ハンドアイ・フットアイコーディネーション」という言葉がありますが、これはボールの動きを読む力、視覚で得た情報から自分の行動をとる能力です。お手玉などもハンドアイコーディネーションですね。
6.リズム能力 Sense of Rhythm
音楽や合図に合わせて動く能力。またイメージ通りのリズミカルな動きを行う能力でもあります。
チア、バレエ、ダンス、集団演技、縄跳びで必要になってくる能力ですね。
動きをまねしたり、イメージを表現することができるのも、集団演技で必要なタイミングやテンポもリズム能力です。
現在は学校のカリキュラムにもダンスが取り入れらて重視されています。
7.バランス能力 Balance ability
不安定な状況下、体勢でもプレーを継続する能力のことです。
バランス能力には片足で立つといった“静的”なものと、サッカーでボールをキックするときの“動的”なものの二種類があります。
私は“平衡感覚”というと平均台がすぐ頭に浮かびます。ああいった、不安定な場所で自分の身体をコントロールする能力もそうです。
スキー、スケート競技、水上競技など日常にはない場所で行われるスポーツには必須です。
強い三半規管が必要なクルクル回る体操でも重要な能力ですね。
コーディネーショントレーニングの幼児向けメニュー
子どもは小さい大人ではありません。
選手用のメニューを単純に回数を少なくしただけのものや、時間や負荷を小さくしたものをさせようとしても上手くいかないことが多いです。
身体も精神も未熟ですからそれでは子どもは楽しめないのです。子どもが遊び感覚で楽しむことができるメニューがいいと思います。
一番良いのは鬼ごっこだと私個人は思っています。小さい子って追いかけっこが好きじゃないですか?
ハイハイする赤ちゃんでも「まてまて~」と追いかけるふりをするとキャッキャと喜びます。
二人からできて人数が増えても遊べて、道具も必要なく、運動量も多いというのが魅力だと思っています。
鬼ごっこにいろいろなルールを取り入れてアレンジすることもできるので、子どもも飽きませんし、ルールがある分頭も使わなくてはならなくなります。
鬼ごっこは主に定位、反応、変換が鍛えられます。
鬼ごっこのアレンジ例:
『しっぽとり鬼ごっこ』おしりについたしっぽを取られたら負けです。しっぽはタオルなどを腰にはさんでも良いですね。
『氷鬼』グループ対抗戦の鬼ごっこです。鬼にタッチされると氷のように動きを止めなくていけません。味方のタッチで復活です。
相手も味方もみて動かないといけないですし、駆け引きや協力も必要ですね。
鬼ごっこ以外のメニューでは次のものがあります。
『ミニハードル』ハードルに引っかからないように走ることで定位が鍛えられます。
『手押し相撲』反応、リズム、バランス、変換が鍛えられます。
『ドッヂボール』ボールを使った対戦ゲームは識別、反応、変換、定位が鍛えられます。
運動ではありませんが、『かるた遊び』は反応能力に、『旗揚げゲーム』は識別能力に良さそうです。
幼児に特に重要なのは定位とリズム、バランスです。
確かにリズム感は音楽的センスも必要なことも多くて、大人になってから飛躍的に伸ばすのが難しいのかもしれません。
音感には臨界期(その時期を過ぎると学習できなくなる限界のこと)があると言われていますし、スポーツが得意でもダンスだけは苦手な男の子も多いですよね。
できないのか恥ずかしさがあって苦手なのかはあるのでしょうけど。
バランスも身の軽い子どものうちのほうが恐怖心なくトレーニングしやすそうですし、ケガを防ぐためにも身につけて欲しい能力ですね。
コーディネーショントレーニングのコツ
楽しむこと
子どもが遊び感覚で楽しく動くのがコツです。
親や指導者の声掛けひとつでも効果はちがってきます。例えば動作を教えてあげるときに、オノマトペを活用することで運動経験の少ない子どもにもイメージがしやすくなります。
「そこでピタッと止まる!」「パンッと手をついて」などどんな感覚なのかが伝わりやすいです。
チャレンジすること
ひとつのこと(種目、技)だけにこだわらずにいろんなことをやってみるのがいいです。
新しいことに挑戦するということに慣れることも重要です。
今できる動作より少し難しい課題を与えてみることもチャレンジです。どうやったらできるかな?と自分で考え、対応する力になります。
成功体験を積み重ねること
チャレンジしてみてできたときの喜びが次のステップに進む勇気になります。
小さい成功体験を積み重ねることで、失敗を恐れない強い心を持つことができて成長につながります。
最後に
幼児には疲労度は低めで多種多様な動きをすることで、脳と神経回路が刺激されてどんどん発達していきます。
体を思い切り動かし、たくさんの遊びを経験することがコーディネーション能力をUPさせます。将来何かの競技をするときの下地になりますので取り入れていきたいですね。